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性欲とホルモン
(2013/4/6)

 性欲とホルモンの関係も見逃せない。ホルモンは体内の内分泌線で作られ、血液によって特定の標的器官に運ばれる、微量で強烈な生理作用を持つ化学物質である。このホルモンの作用は「発育成長」「自立機能、衝動機能の調整」「内部環境の調整」の三つと云われる。標的器官はそれぞれ目的のホルモンを受入れる「受容器」があるらしいが不明な点も残されている。30種近いホルモンの中で、性欲に関係するホルモン、生殖・性徴・性機能・性衝動・性行動などに関わるホルモンを性ホルモンと呼ぶ。この性ホルモンを分泌しているのが、下垂体・性腺(卵巣・睾丸)・副腎皮質などである。これら内分泌腺から分泌されているのが、アンドロゲン、エストロゲン・プロゲストロン、ゴナドトロピンなどである。

 「アンドロゲン・シャワー」聞いたことがある、このシャワーを胎児の時に浴びると「男」になる、そう、そのアンドロゲンが出てきましたが、ここではこれらのホルモンが人間の性欲にどのように影響しているかについて、あまり面白くはありませんが、解説しておくことにする。ここを飛ばすと、「外界の刺激と性欲」に行けなくなるのである。驚くほど簡単に説明するつもりなので、ガマン、我慢である。

 動物では性行動などを惹き起す環境の変化が外界の刺激になる。この刺激が感覚系に伝わり神経情報として、動機づけ系の視床下部に伝達される。伝達された情報は行動を発現乃至は抑制するととになるのだが、視床下部、辺縁葉には神経ホルモン産生ニューロン(神経細胞)という、脳の下垂体や生殖腺の働きを制御するメカニズムが存在している。脳の命令で生殖腺から分泌されたホルモンが、今度は逆に脳へフィードバックさせる。神経系では視床下部から運動系に命令が行き、性行動が発現されるが、そのとき同時にホルモンが脳を経て、運動系の性行動にも影響を与えている。つまり、性欲と生殖行動は神経情報として発現すると同時に、ホルモン情報(液性情報)としても発現するということである。

 *『ニューロンというのは、神経細胞が、情報伝達のために作り上げている機能ユニットで神経の単位である。神経細胞の本体である神経細胞体からは、木の枝のようにたくさんの樹状突起が出ている。まわりの神経細胞から情報を受け取る、受信専用のアンテナである。樹状突起はみんな短いけれど、それとは明らかに異なる長い線維が、神経細胞体から1本だけ延びている。これが神経突起(軸索)で、他のニューロンや筋肉などに情報を伝える出力ラインである。そして神経突起は、別のニユーロンとの間にシナプスという接点を持つ。ニューロンは、情報を電位の変化として伝える。それには興奮性と抑制性があり、電位変化が蓄積して、あるレベルを超えると、シナプスを飛び越えて伝わるのだ。かくも精巧なニューロンだが、成人の神経細胞は二度と分裂できない。老化とともに減る運命だ』

 この少々判りにくい脳内のニューロンネットワークが実は男女の性差の重要な位置を占めている。哺乳類のオスは脳内の視索前野部分にあるニューロン(神経受信ユニット)が男性ホルモン・アンドロゲンへの感受性を持っているため、アンドロゲンを受信すると、中脳や延髄の運動系神経に命令を送り、オスに生殖行動を発現させることになる。メスのホルモン・ニューロン・ネットワークはオスに比べて相当複雑です。メスの場合、性行動の制御は旧皮質の視床下部腹内側核で行われる。脳に女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステトロンが働くと、その感受性ニューロンが活動を始め、今まで支配されていた上位の脳から抑制を解放、中脳・脊髄周辺の感覚系・運動系のニューロンが敏感になり、オスとの接近で容易に性行動を起すというメカニズムになっている。

 実はメスの場合これだけでは済まない。ご存知の性周期がメスの性欲・性行動に関わってくるのだ。まず性中枢・視床下部からGnRHという「性腺刺激ホルモン放出ホルモン」が分泌、下垂体から性腺刺激ホルモンが分泌される。このホルモンが体液を通じて卵巣に達し、卵巣に排卵などを促しことになる。逆に、卵巣から分泌された卵胞ホルモンや黄体ホルモンは同様に体液を通じて、下垂体や視床下部に情報をフィードバックするという、循環機能でメスの性機能を調整しているのである。参ったか?おおむね人間以外の動物はホルモンの支配下のみで、専ら性欲や性行動を起し、生殖・種の保存を行っている。おおむね問題があるのは人間の性欲だけである。

 ラットなどの実験によれば、卵巣を除去したメスはオスを絶対受入れない。しかし、女性ホルモンであるエストロゲンを投与すると、再び激しく性行動を起す。この段階で動物のメスの性行動がホルモンに絶対的に支配されていることが分かる。ところがである、人間の女には、この科学的真実があてはまらないのである。何故かというと、人間の女の場合、卵巣を全摘出した場合、月経は当然なくなるが、性欲や性行動はほとんどの場合影響を受けないのである。つまり、人間の性欲・性行動は脳の「性中枢」やホルモンの影響を受けてはいるが絶対的ではないということになる。思い出したが、「男女の雑学」の中に『去勢された男子のペニスは勃起しない、しかし、被去勢者が性経験者の場合は勃起する』という情報があったが、これも人間の性欲・性行動が大脳の学習能力に大きく支配されていることを裏付ける。

 人間の性欲(大脳性欲)にとって、性ホルモンよりも外界からの視覚・聴覚・触覚といった刺激で大脳皮質が興奮、性中枢が刺激を受けて性欲・性行動を起すと考えられる。たしかに、人間の性欲・性行動が脳と性ホルモンと外界からの刺激の総和というグロスマンの言葉を裏付けている。しかし、人間の脳科学の研究は様々な問題で一気に解明されるという性格のものではないため、未だ道半ばな状況なので、現在のところ「そうだと思う」としておきたい。「性欲」に関する、脳科学や分泌学の学者の著書では、外界からの刺激として「パートナーの存在」を重要視している傾向があるが、筆者としては「性欲の説明」としては、納得させられないものがあり、あえて省力してある。